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今の教育現場を知ってほしい。中学英語教師が語る本音。

こんにちは!AWAKE&編集部です。会員の皆様の人生観や、大切にしていること、日々の気づきなどをお伺いする、「AWAKE&会員インタビュー企画」をお届けします!

今回は中学校の英語教師、小片朱音さんをお招きし、学校教育の現場を先生の視点から詳しく伺いました。

Profile

小片朱音(おがたあかね)
元公立中学校英語教師。1994年生まれ。幼少期をオーストラリアで過ごす。津田塾大学卒。在学中、米Bryn Mawr Collegeへ留学。2023年夏よりオーストラリアのウーロンゴン大学院でTESOL(英語教授法)を専攻予定。


先生の期待で、気づけば自分の性格まで変わっていた。

—— 今日のゲストは、AWAKE&会員の小片朱音さんです。現在の活動内容を教えてください。

初めまして、小片朱音です。3月まで東京都で公立中学校の英語教師をしていました。
来月7月から1年間、オーストラリアの大学院で英語教授法を学び、帰国後は再度教員採用試験を受験し復職する予定です。

—— 朱音さんが教師を目指した理由を教えてください!

きっかけとなったエピソードは主に3つあります。1つ目は小学校での出来事です。

通知表の生活面の「積極性」という項目で、「がんばりましょう」がついたことがありました。担任の先生に理由をききにいくと「あかねちゃんなら、堂々と発表したり、積極的に行動できると思ったから、あえてつけたんだよ。」と言われました。

初めはかなりショックを受けていたんですが、先生の想いをきいて「私に期待してくれているんだ!」と、やる気に転換されていったんです。翌学期は、大きな声で発言したり、代表で作文を読んでみたりと、自分なりに頑張りました。

結果「よくできました」をもらったのと同時に、気づいたら、自分自身が積極的な性格に変わっていて。そんな自分に驚き、先生の期待がもたらす力ってすごいなと思ったんです。

2つ目のきっかけは、中学の時です。

英語の先生が、革新的な授業をする方でした。詳しく説明するのは難しいのですが、英語の授業というよりは「道場」や「ジム」のような。

おかげで私は鍛えられて英語が得意になり、その後の自分の人生が切り拓けています。私もいつか、誰かの人生のきっかけになりたい、と思うようになりました。

3つ目は高校時代のことです。

私は塾には通わず、テスト前は毎日職員室に質問に行っている学生でした。毎日でも温かく迎えてくれる職員室が大好きで。

その頃から、「将来こんな雰囲気の中で、先生たちと一緒に自分も職員室で働きたいなぁ…!」と具体的に想うようになったんです。

素晴らしい先生たちとの出会いが今に繋がっています。

—— あたたかいエピソードのご共有、ありがとうございます!


部活動の顧問はボランティアとみなされてしまう。

—— 担任をもっている時の、1日の流れを教えてください!

だいたい毎日こんな流れです。

7:45 教室整備
8:15 職員会議 
8:20 朝読書、朝学活
8:45 1時間目〜4時間(空きコマがある日も)
12:35 給食、昼休み(色んな事件が起こります…!)
13:30 5時間目、6時間目
15:20 終学活、掃除
16:00 部活動
18:00 事務仕事のスタート(丸つけ、授業準備など)

生徒がいる間は気が張っているので、18時に部活動が終わるとクタクタです。そこから先生たちの事務仕事が始まります。プラスで委員会や、体育祭、合唱祭などがある時は大忙しです。

—— 実質12時間くらい働いていませんか?!残業代などはでるのでしょうか?

そうなんです。公立では残業代はでません。国としての労働の定義は8:15〜16:45となっています。部活動はカウントされていないため、顧問をするのはボランティアとみなされていますね。

コーチを外部委託をするべきだという方針はあるのですが、財源がないとのことで、現状まだ機能していません。

権利上、部活動の顧問を拒否することはできるものの、そうすると結局、他の先生の負担が増える構造になっており、実際断るのは難しいです…。

—— これでは、さすがに大変ですね。状況が改善されてほしいです。


3年間の全てが報われる瞬間を体験できた。

—— 教師生活の中でどんな時に感動しますか?

ずっと前、大ベテランの先生がこう言っていました。

「この仕事は大変で、辛いこともたくさんある。それでも卒業式の日、担任の先生の合図で生徒達が立ち上がる瞬間に、全てがむくわれるんだよ。」と。

教師を始めて3年経ち、一緒に過ごした子どもたちが卒業する日に、その言葉の意味がわかりました。達成感と切ない気持ちが混ざりあった、すごくすごく特別な気持ちでした。

生徒からプレゼントしてもらった宝物

—— 大変だったエピソードはありますか?

2年目までは本当に苦労しました。1年目でいきなり、産休に入った先生を引き継いで担任をもつことになったんです。

もともといた先生の人望が厚かっただけに、私に対して敵意をもつ生徒もいました。初めてだったので、そうした一部の生徒の存在が大きく見えてしまったんですね。どんどんメンタルがやられていき、あの頃は毎日が精一杯でした。

また、やんちゃな生徒たちの生活指導や保護者対応も大変で。今振り返れば、上手く対処できたであろうことも、当時の私には難しく、必死な毎日でした。

でも、とても辛かった時、1人の生徒から「先生のクラスになれてよかったです」という長文の手紙をもらったんです。その手紙には救われて、今も飾ってあります。

たくさんの苦労があったからこそ今の私があり、その子たちといっしょに卒業式を迎えられたことは何にも変えられない思い出になりました。

—— 生徒や保護者がなかなか気づかないところで、先生はたくさん苦労されているんですね。

毎日がドラマの連続ですね。人間が40人いれば、絶対にトラブルはあります。スムーズにいかないことは仕方がないと思います。もし過去の私と同じように、新人の先生が悩んでいたとしたら「自分のせいだと思わないでほしい。」と言いたいです。ただし、諦めなければ必ず良くなります。

私も当時の学年主任に言われました。
「担任の先生が諦めたら、絶対ダメになっていく。でも先生が明るい方向を見続けていたら、必ずついてきてくれる。」と。

—— 子供達は柔軟に変化していくのですね。

そうですね。たとえば子供達の口癖にも表れます。先生の口癖がそのまま子どもたちに伝染していくことがよくあるんです。

だからこそ生徒にかける言葉にはいつも気をつけています。私は普段から「ありがとう」と「助かる」をキーワードにして、クラスが助け合う雰囲気作りを心がけています。


心が澄んでいく自分を、以前よりも好きになれた。

—— 教師生活を続けるなかで、ご自身が変化したと感じることはありますか?

はい、大きく3つあります。

1つ目はメンタルが強くなったことです。色々と乗り越えてきたので、これから何があっても大丈夫だと思えるようになり、簡単には折れない確信があります。

以前はなんでも「自分のせいだ」と考えてしまう癖があったのですが、今は客観視できるようになりました。そのうえで抱え込まずに人に頼るようにしています。何か問題があったら、他の先生方と話して分散させることで、早く前向きになれますね。

2つ目は、心がどんどん澄んでいくことです。
人と真剣に向き合うことを何十年も続けてきたベテランの先生たちは、『アミ小さな宇宙人』(エンリケ・バリオス著)でいう「愛の度数」が高い人たちだと思うんです。

そんな先生方、そしてピュアな子供たちに囲まれていることで、自分の心も澄んでいき、自分自身のことをもっと好きになりました。

3つ目は、授業のアイディアが湧き出るようになってきたことです。

私は授業をするのが大好きで、常により良い方法を模索しています。例えば前年にすごく盛り上がった活動があっても、そのまま使うことはせず、「さらに良くするためにはどうすればいいか?」と必ず改良を加えていきます。

そうしているうちに、授業に関して泉のようにアイディアが湧いてくるようになったんです。自分でも不思議な感覚です。


本当の理想は、通知表のない純粋な学び。

—— 日本の学校教育の好きなところはどこですか?

生徒主体の授業が増えているところです。昔は講義型が主流でしたが、現在は話し合ったり、アイディアをだして発表したりと、スタイルが変わってきています。

また、体育祭や合唱祭などの行事があるところです。人と一緒に何かを達成する経験をすることで、完全に個人主義で育つよりも、協力的な大人になれるのではないかと思います。

朱音さんから生徒へのメッセージ

—— 逆に変えたいところはありますか?

理想を言えば、私は通知表をなくしたいです。54321をつけたくないんです。つけるとしても、「この技能を身につけたかどうか」の ⭕️ だけでいいと思います。1や2をとる生徒は、怠けているわけではなく、能力的に難しい場合もあります。自己肯定感を下げる一方ではないかと懸念しています。

また、成績をつけるためにテストをする面がありますが、通知表がなければ「ただ勉強が楽しい」と思ってもらうことを1番の目的として教えることができます。

本当は、偏差値ではなくて「この学校はこれに強い」という、やりたいこと、好きなことベースで選択できる教育が良いですよね。

そんなに単純な話ではないですが、私は好奇心による学びこそ大切だと思うんです。


オーストラリアで教育の引き出しをたくさん増やしたい

—— 来月からオーストラリアの大学院に進学されるそうですね!

はい、オーストラリアで学ぶTESOL(ティーソル)は、Teaching English to Speakers of Other Languagesの略語で、「英語を母語としない方に向けて英語を教える方法」の分野です。

私は授業をするのが大好きなので、いつかはTESOLを学びたいという気持ちがずっとありました。

オーストラリアは、移民や留学生が多く、また発達障害がある生徒も一緒に学べるインクルーシブ教育や、タブレットを使った学習も進んでいます。

大学院で学びながら、現地の学校にも視察して、教え方の引き出しを増やしたいです。生徒の個性に合わせた方法を提案できるようになり、置いていかれる子がいないような授業をするのが目標です。


今の子供たちは、物に溢れている心配も…

—— 朱音さんがAWAKE&で好きなコースはどれですか?

エンパシーコースです。「他人の靴をはく」という考え方は、教師としてすごく大事だと思います。生徒の身になれるよう、意識して思い出さないといけないですね。

—— 日常の中で大切にしている、エシカルなアクションはありますか?

食べ物を残さないこと、物や服を長く大切に扱うことです。

またいつも裏紙を活用しています。実は今まで私個人はテスト勉強にノートを使ったことがないんです。問題を解いたり、単語の練習したりするのは、裏紙で十分だと思っています。私の授業では、プリントの裏なども活用してもらっています。

そういったささいな生活習慣も、先生の心がけ次第で教えることができると思います。

—— 今の子供たちにはエシカルな学びは伝わっていますか?

LGBTについて学ぶ講演会や、助産師さんがきてくださる性教育などはあります。また教科書でも社会問題を取り扱っているので意識醸成の機会はあります。

ただ1つ気になるのは、生徒が物を持ち過ぎていることです。私の学生時代とは違っているのを感じます。

多くの生徒は筆箱に溢れるほど物が入っていて、「この落とし物、誰の?」ときいても、持ち主がでてこないんです。落とし物箱はたまっていく一方で、新品の消しゴムなども出てきます。簡単に買ってもらえるのだと思いますが、1つ1つを大事にしてないのではないか、と心配になりますね…。

今の教育現場を知って、関わってほしい。

—— 学校の外に伝えたいメッセージはありますか?

学校教育を、ご自身の受けてきた10年以上前の経験をもとに語る方が多い気がしますが、実際は授業のやり方が生徒主体になってきたように、どんどん変化していることを認識してもらいたいですね。

関心があれば、ぜひ学校に関わっていただけたら嬉しいです。PTAはもちろん、運動会のボランティアや、地域ボランティアの募集など、実は大人が関われる様々な機会があるんです。

そして学校教育は常に良くなろうとしている、ということを信じていただきたいです。先生方はみんな本当に熱心なんです!

—— 日本の学校教育に対して、親近感が湧いてきました。子供たちと一生懸命向き合ってくださる教師の皆さんに感謝します。素敵なお話をありがとうございました!


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